私がこの本に出合ったのは近所の図書館でだった。
次に読む本が中々決まらず館内をうろうろしているとラブストーリー特集と書かれた別置コーナーに目が留まった。
「センセイの鞄」はそのコーナーに面出しをされて置かれていた。
よく名前を目にする作品だったがまだ読んだことはなかった。
ハードカバーのその本は他の本に比べると装丁は控えめな印象を受けたが、本につけられていたPOPに私は強く心惹かれた。
司書が書いたと思われるそれには本文の一部が引用されていてこう記されていた。
「センセイと過ごした日々は、あわあわと、そして、色濃く流れた。」
あわあわ、と、流れる、日々。
語感から連想される穏やかで柔らかな日常。
「温かな物語に出合えるかも!」
と期待を胸に手に取った。
そして、完読後、恋愛小説の中で一二を争うほど大好きな作品になった。
「センセイの鞄」は、主人公のツキコさんが馴染みにしている居酒屋で初老の男性に声をかけられるところからスタートする。
初めのうちは男性が誰だったか思い出せないツキコさん。
しかし話すうちにその男性が高校時代の国語の先生だったことを思い出す。
それ以来、ツキコさんとセンセイは、気の置けない飲み友だちとして交流を重ねていく。
待ち合わせをするでなく、店で一緒になれば隣の席に座る。連絡して飲みに行くことはしない。
たまに飲んだ帰りに自宅に寄らせてもらいお茶を飲んで帰る。
お互いが気を遣い過ぎない適度な距離間。
心地よい時間が流れていくが花見や祭、キノコ狩り、クリスマスなどセンセイとの思い出を増やしていくうちに、ツキコさんはふと、センセイに対する自分の気持ちが
「敬愛」か「恋慕」なのかと
判断出来ないと戸惑いはじめる。
独り身のツキコさんと妻と死別したセンセイ。
恋愛出来ないこともないが、約30歳の年の差で、さらに元教師と生徒。
現実的というには無理がある。
大体、センセイにとって自分はそういうものじゃないだろう。
今の関係を壊したくない。
ただ側にいれるだけでいい。
とツキコさんは自分の気持ちに蓋をして、センセイとの逢瀬を重ねていく。
この時点で不器用なツキコさんに焦ったさを感じてしまうが、この自分の気持ちに素直になれない、自信が持てないツキコさんのキャラクターがこの本の最大の魅力なのではと私は感じている。
緩やかに過ぎていく日々の中で思い悩むツキコさんの姿に私はついつい応援したくなり本の中の登場人物だというのに何故だか昔から知っている友だちのような錯覚さえ覚えた。
熱燗を準備してお猪口に注ぎながら
「ツキコさん、深く考えずに自分の心の声に従って!!」
とエールを送れたらいいのにと思うとページをめくる手にも自然と熱が帯びた。
それほどまでに親しみを持ってツキコさんの恋の行方を追いながら読んだ。
テンポよく進むわけではなくスリルのある物語では決してないが、ツキコさんへの共感から胸に熱いものが込み上げてくる。
スローながらもホットな作品だと感じた。
さて、どうしてもツキコさん視点で物語を読んでしまいがちだったがセンセイ視点で読んでいくと温かいというだけではないヘビーな印象に変わる。
ツキコさんの想いは決して一方通行ではない。
ツキコさん同様にセンセイもツキコさんのことを大事に想っている。
しかし、センセイはツキコさんを「特別」と認めることに躊躇している。
作中でセンセイの自宅にお邪魔したツキコさんがセンセイの家にある思い出の品を見せてもらうシーンがある。
旅行先で買ったひょうたん。
使い終わった大量の乾電池。
もう読んでない雑誌。
その他諸々。
どれもこれも
使えなくなったものばかり。
センセイは大したものでなくても捨てるという行為に躊躇いがあり踏ん切りがつかず、
溜め込んでしまう。
そして、センセイがどうしても捨てきれないものの最上位に君臨するものは「死別した妻」妻とセンセイとのエピソードは作中でも事あるごとに語られる。
センセイの側にあり続ける妻の影に、ツキコさんは何度もモヤモヤしたり嫉妬したり、ギクシャクする原因となる。
センセイからしてみれば、簡単に妻への想いを捨てきれるはずもなく、そんな状態でツキコさんに特別な感情を抱くのは失礼だという認識である。
また、老い先短く、彼女を残して去っていくのが確実と分かりきった上で、想いを伝えるのは無責任かつ誠実ではないという気持ちも読み取る事が出来た。
妻と死別し、残された立場だからこそ、ツキコさんには同じ思いはさせたくない。
センセイの精一杯の気遣いとも言える。
確かにセンセイがいなくなった部屋にツキコさんと乾電池等、捨てきれなかったものたちだけが残されると思うとあまりに痛ましい。
ツキコさんがセンセイへ想いを伝えるのと、センセイがツキコさんへ想いを伝えるのとでは、重みがあまりに違う。
ツキコさんはセンセイの優しさを思わせぶりとだと腹を立てたり、していたが、センセイは、ツキコさんの今後の人生と自分の気持ちを天秤にかけて迷いに迷っていた。
ツキコさんのことを想って時間をかけ、迷いに迷っていた。
そして、ツキコさんを想う自分の気持ちを大切にする決断を下した。
ツキコさんもセンセイもお互いのことを想ったが故に一歩踏み出せなかった節がある。
しかし、最終的に、どんな未来が待っていようとも、今という瞬間自分たちが望む幸せが何かを見つけられたのだと思うと目頭が熱くなった。
全体を通して、ツキコさんとセンセイの恋愛はまるで、蛍の光のように淡く、しかし美しく澄んだものだったように思う。
いずれ消えてしまうと知りながら見たものの記憶に明確に刻みつけられるような、そんな美しい恋。
ラストシーンは、ハッピーエンドかと言われれば賛否両論あると思われるが、かけがえのない時間を共に過ごしたという点で言えば、私はハッピーエンドだと考える。
「センセイの鞄」を読んで、私はセンセイの真剣さやツキコさんの一途な想いをまるで自分のことのように、追体験することが出来た。
あわあわ、と、色濃く流れた2人の特別な日々に触れられた事は自分にとってもかけがえのない時間となった。
以前から作者の川上弘美氏は別作品を読んではいたたものの「センセイの鞄」はなんとなく手に取る機会がなかった。
もっと早くから手に取って、読んでおきたかったとも思うが、まずは出合いが、遅くともこの作品を読みことが出来たこと、図書館で出合わせてもらえたことに感謝したい。
これを機に、もっとアンテナを貼ってさまざまなジャンルの本も読みたいと積極的に思えるようになった。
本を開くと、物語の扉を開けてフィクションの世界に行きき出来ているような気持ちになる。
また、登場人物の苦悩や頑張りを見て勇気をもらうことも出来る。
今回私は、センセイの鞄から自分の気持ちに素直になることが幸せへの第一歩だと感じ、そこから色々と学びとることが出来たと思う。
恋愛小説で学びなんて…と思われるかもしれないが、見方次第では、どんなジャンルでも新たな発見はある。
自分の気持ちに素直になれない。
相手のことばかり考えてしまい身動きが取れなくなる。
そんな人には是非、この本を読んで、新たな発見をしてもらいたい。
少々押し付けがましいかもしれないが、それほど、推したいと感じた。
感じ方はそれぞれだと思う。
好き嫌いもあるかと思う。
そもそも恋愛小説は、好きじゃないという人もいると思う。
ただ、何か読む本ないかな?という時が来たら、試しに手に取ってみてほしい。
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興味があればぜひ手に取ってみてください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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